ルサのっこし
例年、寒さの厳しい2月の中旬に職場の若い者達と山中に酒を飲みに出かける。
今年は2年ぶりに「ルサのっこし」で一杯やることとなった。
知床には羅臼側に『ルサ』、斜里側に『ルシャ』と言うアイヌ語地名が残されている。
もともとは同じ発音でルシャ、と言うらしいが明治年間に陸地測量部が地形図を作る際に
まぎらわしいので、羅臼側をルサとしたらしい。知床の最低鞍部で風の通り道となっており、
沖合では常に波が立っているため、漁師達も「ルシャモン」と呼んで警戒する地域である。
ru-e-san-i(ルエシャ)=路が・そこから・浜へ出ていく・所。と言う意味だそうだが、
昔から知床半島を横断するのに使われていたという。その名の通り、
標高千メートルを超える知床の主稜線の中では一番低く、
わずかに280メートルを計測する。出発は海岸の道路脇からで、
1泊2日の装備なのでそんなに重たいはずはないのだが、
皆それぞれに隠し財産を携えているため、それなりの重量になる。
山スキーにシールを貼り付け、登高を開始する。
登高と言ってもしばらくはルサ川の河原を歩くためほとんど平坦で、
1時間ほど進んだ後やや急な斜面をスキーをだましながら50メートルほど登り、
後は緩やかな斜面の灌木帯を登り詰める。更に1時間ほど歩くと主稜線に到着、
オホーツク海には流氷が詰まっており、
羅臼側は黒々と横たわる国後島との間の根室海峡に開氷面がかなりあり、
操業中の漁船も見受けられる。一服した後はいよいよ本日の居酒屋作りに取りかかる。
冬季間この地域では絶え間ない北西風が吹き続けるので、稜線の東側に巨大な雪庇が発達する。
そこに穴をあけ、7〜8人収容の大きな雪洞を掘ろうというわけだ。寒風を避けるため、
入り口は小さくしなければならず、最初の内は狭苦しくて大変だ。
入り口から斜面の下に向けてスキーを裏返しに敷き並べ、手動のベルトコンベアーとする。
若者達には汗をかかないように頻繁に交代するように指示するが、ついつい夢中になってしまい、
汗まみれ、雪まみれとなってしまう。
1時間半もすると完成だ。中では外の風音も全くせず、
蝋燭のほのかな明かりが満足そうな顔を照らし出す。食頭(最近の食頭は『シェフ』
と呼べと言ってうるさい)は雪を溶かしながらこりにこった調理のうんちくを並び立て、
各人はザックに隠し持ってきた酒とつまみを自慢する。
湯気で隣の人の顔もかすみながら料理が完成するといよいよ、
時間無制限・一本勝負の始まりだ。
涌坂周一
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