世界自然遺産を
めざす知床半島
四月から5月にかけての連休に南米大陸の南端を訪問してきた。
パタゴニアと総評される地域である。目的は、来年に予定してい
るカヌーによるケ−プホ−ン周回の下調べである。チリ海軍の大
変な好意により、世界でもっとも南端にある人口千八百人の村落
プエルト・ウイリアムスから軍艦で、多数の島々を見渡しながら
ケ−プホ−ンまで往復15時間かけて見学させていただいたが、
幻想をもたらすような景観であった。
航路の両側に遠望できる山々は、標高1,000メ−トル程度であ
るが、南緯56度近くにあるために氷雪で化粧され、絵画の景観で
ある。灯台を維持する軍人以外には無人の地域であるが、
チリでは
、この一帯を厳正に管理しながら観光に開放する構想を検討してい
る。過酷な気象条件と世界の最果ての土地という条件では多数の人
々が来訪するわけではないが、このような環境の存在が世界に知らされ
ことには十分な意義がある。
日本で同様な場所として最初に想起されるのは知床半島である。北
緯44度近くであるから真夏には知床連峰の一部の残雪以外には氷
雪はなくなるし、半島の付け根まで集落が接近しているし、多数の
人々が来訪する宇登呂温泉街があるなど、パタゴニアとは相違した
環境であるが、冬季の苛酷な気象条件や先端まで道路が無いために
海上からしか接近できないということでは類似した環境である。
現在、この知床半島を世界自然遺産に登録しようと運動が半島の両側
にある斜里と羅臼の二町によって推進されているが、登録された以後
の利用方法について意見が二分している。
一方は厳正な保護地区に指
定して、登山や海上からの上陸なども対象として陸地への立ち入りを
全て禁止しようという意見であり、
他方は事前登録を条件とするなど
一定の規則のもとで立ち入りを容認する意見である.
筆者は毎年数回、カヌ−で知床半島を周回しているし、冬季にも流氷
の隙間をカヌ−で航行しているが、海上から眺望できる原生の森林、
会場で出会うトドやアザラシやさまざまな海鳥、海岸を悠々と散歩し
ているヒグマなどに毎回感激する。この日本最後といってもいい本物
の秘境を保<護するために、
完全に人間を排斥する前者の方針は、その
ような自然の存在を人々から隠蔽することにもなりかねず、疑問である
そこで以下のような利用方法が適切でないかと提案したい。知床半島を
海岸から遠望すると、斜里の海岸にも羅臼の海岸にも適当な間隔で番屋
が点在している。夏季に漁業のために漁師が短期滞在する小屋である。
長年の経験によって場所を選定しているから風雨や波浪の影響からも安
全であるし、水場も近接している。しかし断崖の仮設便所からの糞尿は
海面へ直接落花していくし、生活用水も処理されないまま海中に流入し
ている。
ところが最近、高速漁船が使用されるようになり、斜里や羅臼の漁港か
ら日帰りで仕事をする漁師が増加し、次第に番屋の利用頻度が低下し
てきている。そこでこれらの番屋を改造し、便所や汚水の処理施設も整
備し、有料の宿泊施設にする。贅沢な施設である必要は全くなく、無く
風雨やヒグマなどの危険が回避できる程度で充分である。管理は漁業組合
でもいいし民間委託でもいいし、場合によっては開放してもいい。
もうひとつの対策として
ガイド制度を導入する。知床半島は周回する道
路もないし、携帯電話も大半の場所は使用できないから、緊急の場合に
簡単に非難とか救助できない相当に危険で場所がある。そのような宿泊
施設が利用できるからといって、誰もが気安く出かければ問題が発生す
ることは確実である。そこでこの半島を熟知した専門のガイドを認定し
それらの人々の同伴を知床半島へ立ち入る条件とする。
時期よく、昨年から北海道庁がガイド資格認定試験を開始したところで
ある。その一部として知床半島を陸上から
登山するときのガイドと海上
から上陸するときのガイドを認定すれば、地域に就業機会を創造するこ
にもなるし、番屋を宿泊施設として維持するための支援にもなる。実際
、斜里の漁業組合の人々が開始した流氷ウオ−クや流氷ダイビングは人
気があり、仕事のない冬場の漁師にとって現金収入になる仕事になって
いる。
世界遺産には自然遺産と、文化遺産があるが、地域の人々が漁業を生活
の基盤としながら自然を維持してきた知床半島は両方の性質が融合した
複合遺産である。
そのような環境を維持していくためには地域のみなら
ず、広汎な国民の支援が必要であるが、そのために重要なことは
情報共有
である。その一環として、知床半島を厳正に管理された状態で人々が
探訪できるような地域にする検討を期待したい。 月尾嘉男
|
|