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rausu

銀の海峡 海峡の詩
最後の秘境・知床羅臼の世界



…魅せられし若者たち 2…
森の達人・海の達人

本物の羅臼の自然は、
本物を求める人間たちを引き寄せる。
羅臼の自然に魅せられ、町外から移住した2人の達人
石井英二さんと関勝則さん。
「森」と「海」
それぞれのフィ−ルドを知り尽くした2人は、
ここから世界に向けて、
羅臼のネイチャ−・ワ−ルドを発信する。




鳥

−森の達人−
石井英二(いしい・えいじ)

昭和26年、横浜市生まれ。昭和52年、平凡社「アニマ」の
愛読者動物写真コンテスト最優秀賞を受賞。昭和53年、動物
写真家を志し、羅臼町に移り住む。知床一帯をフイ−ルドに、
北の野生動物たちの表情を力強くとらえた作風に定評がある。
主な作品集に『シマフクロウ』(共著/平凡社)、『オオワシ』
(偕成社)、『こおりのうみのどうぶつたち』(童心社)、
『コロニ−の島』がある。




その一瞬に命の輝きを見る
鳥
写真・石井英二
大きな翼を広げ、オオワシガ風に乗る、まさにその瞬間をとらえた写真は、石井作品の ”真骨頂”といえるものだ。翼には力がみなぎり、鋭い爪で蹴った流氷が砕け散る。 多くのアマチュアカメラマンが憧れる石井英二さん一流のモチ−フと構図がそこにある。 オオワシとオジロワシは、知床の冬のシンボルである。知床では、地球上のオオワシの 約半数が越冬することもあるといわれ、オジロワシの繁殖率も世界有数を誇る。 「僕は生態系の頂点に立つ動物が好きなんです。そうした動物たちが住める原生の自然 環境が、この知床にはまだまだ残されているんですね」 オオワシ、オジロワシ、トド、アザラシ、ヒグマなど、知床一帯をフィ−ルドに、北の 動物たちを追い続ける石井さん。近年ではハイビジョンカメラによる撮影にも意欲的に 取り組み、NHKテレビ『生き物地球紀行』などにも、多くの作品を提供している。 とくに石井さんがこだわるシ−ンのひとつに「捕食」、つまり動物が狩をする瞬間があ る。石井さん単独での初の写真集『オオワシ』でも、海面に急降下したオオワシがスケ ソウを捕獲するシ−ンや、魚を押さえつけて食べる姿、また、オオワシどうしの獲物の 奪いあいなどを迫力ある映像で捕らえている。 動物がそのエネルギ−のすべてを注ぐ狩の瞬間。そこに石井さんは野生の輝きを見る。 「食べるものと食べられるものとの関係、そして食物連鎖が僕のテ−マでもあるんです」 横浜生まれの石井さんが羅臼への移住を決意したのも、この「捕食」をめぐる、 ある動物への出会いがきっかけだった。 石井さんが北海道旅行繰り返すようになったのは、 東京の大学に通っていた70年代後半。そんなあるとき、 羅臼で出会った老人から不思議な話を聞いた。 《知床の森には、人間の身の丈ほどもあるフクロウが住んでいる。その鳥は、暗闇から 音もなく現れ、川を泳ぐサケヤマスをわしづかみにして食べる》というのだ。 当時はまだ生態すら謎につつまれ、”幻の鳥”と呼ばれていたシマフクロウである。 石井さんは、その神秘的ともいえる鳥の話にすっかり心を奪われた。 「もう見てみたい、撮ってみたい。その一心で大学院を中退して、羅臼へ移り住んで しまったんですね、もちろん、当時は写真家として食べていける見込みなんて まったくなかったんですが」と石井さんんは頭をかく。 吸い込まれそうなイエロ−の紅彩(眼球)、哲学的な風貌など、シマフクロウには、 人をひきつけてやまない魔力がある。古来アイヌ民族も「コタンクルカムイ」(村 の守り神)としてこの鳥を神聖視した。しかし、営巣に必要な樹洞のある大木が道 東以外にはほとんど残っておらず、知床が最後の「聖地」といわれる。


現在環境省 レッドデ−タ−ブックでも、最高ランクの絶滅危惧種に指定される。 夜行性の上、生息数も少ないことから、シマフクロウの撮影は困難をきわめた。 結局、捕食の瞬間を目にするまで、4年もの歳月がかかったという。 石井さんは、夏は温泉のボ−リング作業、冬は、水産加工場でアルバイトしながら 夜間に森に分け入って観察を続けた。 「でも、ひたすらシャッタ−チャンスを待つというより、見ているといろんな ドラマがあるんです。それがおもしろいのですよ」 石井さんの場合、追いかける動物の生態について、あらかじめ本から知識を得るこ とはまずないといい切る。すべて自分の目と体にその生態を刻むのだ。 「そして長い期間、観察を続けていると、”必ずチャンスの年” というのが訪れます。だからこそ、今年だめでもまた来年という感じになれる」 アシカケ年。暗闇に光るシマフクロウの捕食の瞬間を、スピ−ドあふれる映像で ちらえたその作品は、昭和59年に発表され、大きな話題となった。 鳥
写真・石井英二

5年の追跡は、石井さんにとって決して長いものではない。現在も撮影を続ける オジロワシ親子とのつきあいは、すでに10年以上に及ぶという。 オジロワシの巣は、多くの場合、人を寄せつけない急峻な崖や斜面上の樹上にあ る。そうした場所に「ブラインド」と呼ぶ目隠しを張り、撮影を続ける。 繁殖期のワシは、とりわけ警戒心が強く、人が近づけば容易に巣を放棄してしま うことが知られている。今日では、野生動物に影響を与える人間の行為も問題視 されるが「いかに動物にストレスを与えないようにするか。それには動物との信 頼関係が大切なんです。こちらが危害を与えないのが伝われば、 向こうもぼくのことをきにしない」 このあたりは達人ならではの距離感というしかないが、石井さんは、動物たちと ”点”ではなく、長い時間をかけた”線”で関わろうとする。 その情熱が石井作品の凝縮性を支えているのだろう。 「まだまだ撮れてないシ−ンが、自然界にはたくさんあります。 これまで人間が誰も見ていないようなシ−ンっていうのを、 これからもどんどん突き詰めて撮っていきたいですね」 近年、羅臼を基点に国後・択捉、さらにはロシアにも視点を向ける。平成9年 には、カムチャッカ半島でオオワシの営巣風景を撮影、その映像は 『生き物地球紀行』で放送された。 写真から映像へ...ハイビジョンカメラをたずさえて、新たな石井ワ−ルドの構築をめざす。

鳥 写真・石井英二